便潜血陽性を再検査して陰性なら大丈夫?!は危険です!

いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長の井坂です。
健診や人間ドックなどで便潜血検査が陽性と出たとき、多くの方はまずこう考えるかもしれません。
「再度便を採ってもう一回潜血検査をして陰性なら精査を受けなくてもいいよね?」
精密検査である大腸カメラをなるべく受けたくないという潜在的意識からくるものですが、これには重大な問題があり、「意味がない」だけでなく、潜在的な「危険」を孕んでいます。
また、この選択は受診者だけではなく、消化器が専門でない医師も選択することがありますので、今回はこの点についてデータをもとにその根拠とリスクを整理したいと思います。
1.便潜血検査の精度と限界
まず、便潜血検査自体には限界があります。
• 臨床データによれば、進行大腸がんでも便潜血検査で検出されない、つまり偽陰性になるケースがかなりある。「進行大腸がんの検出率はおよそ 60~75%」という報告があります。
• 日本のガイドラインでも、便潜血検査の「再度の便検査(再検査)」は推奨されず、大腸カメラなどの精密検査を行うべきだと明記されています。
つまり、一度でも便潜血が陽性だったという事実を後回しにして、もう一度簡易な検査だけで済ませるのは、医学的には非常にリスクがある判断ということになります。
2.再検査(便潜血をもう一度やる)には「意味がない」とされる理由
では、なぜ再検査は意味がないと言われるのか。その主な理由を整理します。
① 出血の断続性
・大腸がんやポリープからの出血は常に一定ではなく、出血があるタイミングとないタイミングがあります。
たとえば、最初の潜血検査で採取した便には出血が含まれていたが、再検査ではたまたま出血していないタイミングの便を採ってしまう可能性があります。
そのため、再検査で陰性になったとしても、それで「異常なし」と判断できるわけではないのです。
② 偽陽性・偽陰性のリスク
・一方で便潜血検査では、偽陽性の率が無視できないという報告があります。
たとえば、ある集団を対象とした年1回のスクリーニングを10年間続けた場合、23%の人が少なくとも1回陽性だががんではないという結果の研究があります。
また、便潜血によるスクリーニング検査の負の面としては、「陽性だった場合に精密検査(大腸カメラなど)を受けることによるリスク」が指摘されています。
この「偽陽性」は、検査による不必要な不安、過剰な検査、医療コスト、さらには検査そのもののリスクを伴うことになります。
3.再検査を選ぶ「危険性」:放置と過剰検査の両方
「再検査=安全な中間地点」と考えるのは危険で、むしろ以下のようなリスクがあります。
1. 重大な病変を見逃すリスク(放置)
再検査で陰性=安心、という誤った安心感から、精密検査(大腸カメラ)を受けずに放置してしまうケースがあります。しかし、便潜血陽性が示すのは「どこかに出血源があるかもしれない」というサイン。
大腸がんや前がんポリープが放置されれば、進行のリスクがあります。
2. 過剰検査のリスク
一方で、陽性を過剰に反応しすぎて何度も便検査を繰り返すと、偽陽性→過剰な不安→過剰な精密検査、というスパイラルに陥る可能性があります。
大腸カメラには合併症(穿孔、出血)、鎮静リスク、コストなどがあり、これらを不必要に増やすリスクがあるのです。
3. 心理的・経済的負担
偽陽性を繰り返すことで、患者さんは「また陽性かもしれない…」という不安を抱え続けることになり、精神的ストレスが増大します。さらに、繰り返す検査やフォローアップは医療費の増加にもつながります。
4.なぜ「再検査を勧める」医療機関もあるのか
なかには「便潜血陽性 → 再度便潜血検査 → 陰性だったので様子を見ましょう」という方針を採る医療機関もあります。しかしこれは慎重に見極める必要があります。
• 再採便のメリットは、簡便でコストが低いことです。しかし、それは「診断確定」にはなりません。
• 医療機関によっては、再検査を中間的なステップと位置付けているところもありますが、ガイドライン的にはそれは支持されていません。
• また「再検査で陰性だったから安心」は、偽陰性の可能性を見落としていることになります。。
5.提案:患者さんへのメッセージ
以上を踏まえて、伝えたいメッセージは以下の通りです。
1. 便潜血陽性は「要注意」のサイン
再検査をして陰性になったからと言って安心せず、一度でも陽性があれば大腸カメラをきちんと検討すべきです。
2. 再検査(便をもう1回採る)は意味が乏しい
出血が断続的であること、検査の偽陽性・偽陰性率、検査自体の限界を理解する必要があります。
3. 過剰検査・不必要な検査を避けるべき
便潜血の再検査を繰り返すことが、かえって不安やコスト、リスクを増やす可能性があります。
4. 精密検査:大腸カメラの受診を真剣に考えてほしい
1回の陽性を軽視せず、リスクをきちんと評価したうえで大腸カメラを受けることが、命を守る最善の方法になるケースがあります。
5. 相談は大歓迎です
当クリニックとしては、便潜血が陽性になった方で精査に消極的な方にはその後の最適な対応(再検査 vs 大腸カメラ)を丁寧にご説明し、ご本人のリスクや希望に基づいた納得のいく判断をお手伝いします。
たとえば、1年前に当院で大腸カメラを受けた方が、その1年後に便潜血陽性を再度指摘された場合には大腸カメラを見合わせることもあります。
最後に
「便潜血陽性で再度便検査をして陰性になったら安心」は、データに照らせば非常に危険な思考です。
再検査には偽陽性や偽陰性のリスクがあり、重大な病変を見逃すリスクを高めてしまう可能性があります。
便潜血検査で陽性となった場合、軽んじず、きちんと大腸カメラを検討することが、健康を維持することに繋がりますので、お気軽にお問い合わせください。
いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長 井坂利史
日本内科学会認定 内科認定医、総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本消化管学会認定 胃腸科専門医
日本ヘリコバクター学会認定 ピロリ菌感染症認定医
健診や人間ドックなどで便潜血検査が陽性と出たとき、多くの方はまずこう考えるかもしれません。
「再度便を採ってもう一回潜血検査をして陰性なら精査を受けなくてもいいよね?」
精密検査である大腸カメラをなるべく受けたくないという潜在的意識からくるものですが、これには重大な問題があり、「意味がない」だけでなく、潜在的な「危険」を孕んでいます。
また、この選択は受診者だけではなく、消化器が専門でない医師も選択することがありますので、今回はこの点についてデータをもとにその根拠とリスクを整理したいと思います。
1.便潜血検査の精度と限界
まず、便潜血検査自体には限界があります。
• 臨床データによれば、進行大腸がんでも便潜血検査で検出されない、つまり偽陰性になるケースがかなりある。「進行大腸がんの検出率はおよそ 60~75%」という報告があります。
• 日本のガイドラインでも、便潜血検査の「再度の便検査(再検査)」は推奨されず、大腸カメラなどの精密検査を行うべきだと明記されています。
つまり、一度でも便潜血が陽性だったという事実を後回しにして、もう一度簡易な検査だけで済ませるのは、医学的には非常にリスクがある判断ということになります。
2.再検査(便潜血をもう一度やる)には「意味がない」とされる理由
では、なぜ再検査は意味がないと言われるのか。その主な理由を整理します。
① 出血の断続性
・大腸がんやポリープからの出血は常に一定ではなく、出血があるタイミングとないタイミングがあります。
たとえば、最初の潜血検査で採取した便には出血が含まれていたが、再検査ではたまたま出血していないタイミングの便を採ってしまう可能性があります。
そのため、再検査で陰性になったとしても、それで「異常なし」と判断できるわけではないのです。
② 偽陽性・偽陰性のリスク
・一方で便潜血検査では、偽陽性の率が無視できないという報告があります。
たとえば、ある集団を対象とした年1回のスクリーニングを10年間続けた場合、23%の人が少なくとも1回陽性だががんではないという結果の研究があります。
また、便潜血によるスクリーニング検査の負の面としては、「陽性だった場合に精密検査(大腸カメラなど)を受けることによるリスク」が指摘されています。
この「偽陽性」は、検査による不必要な不安、過剰な検査、医療コスト、さらには検査そのもののリスクを伴うことになります。
3.再検査を選ぶ「危険性」:放置と過剰検査の両方
「再検査=安全な中間地点」と考えるのは危険で、むしろ以下のようなリスクがあります。
1. 重大な病変を見逃すリスク(放置)
再検査で陰性=安心、という誤った安心感から、精密検査(大腸カメラ)を受けずに放置してしまうケースがあります。しかし、便潜血陽性が示すのは「どこかに出血源があるかもしれない」というサイン。
大腸がんや前がんポリープが放置されれば、進行のリスクがあります。
2. 過剰検査のリスク
一方で、陽性を過剰に反応しすぎて何度も便検査を繰り返すと、偽陽性→過剰な不安→過剰な精密検査、というスパイラルに陥る可能性があります。
大腸カメラには合併症(穿孔、出血)、鎮静リスク、コストなどがあり、これらを不必要に増やすリスクがあるのです。
3. 心理的・経済的負担
偽陽性を繰り返すことで、患者さんは「また陽性かもしれない…」という不安を抱え続けることになり、精神的ストレスが増大します。さらに、繰り返す検査やフォローアップは医療費の増加にもつながります。
4.なぜ「再検査を勧める」医療機関もあるのか
なかには「便潜血陽性 → 再度便潜血検査 → 陰性だったので様子を見ましょう」という方針を採る医療機関もあります。しかしこれは慎重に見極める必要があります。
• 再採便のメリットは、簡便でコストが低いことです。しかし、それは「診断確定」にはなりません。
• 医療機関によっては、再検査を中間的なステップと位置付けているところもありますが、ガイドライン的にはそれは支持されていません。
• また「再検査で陰性だったから安心」は、偽陰性の可能性を見落としていることになります。。
5.提案:患者さんへのメッセージ
以上を踏まえて、伝えたいメッセージは以下の通りです。
1. 便潜血陽性は「要注意」のサイン
再検査をして陰性になったからと言って安心せず、一度でも陽性があれば大腸カメラをきちんと検討すべきです。
2. 再検査(便をもう1回採る)は意味が乏しい
出血が断続的であること、検査の偽陽性・偽陰性率、検査自体の限界を理解する必要があります。
3. 過剰検査・不必要な検査を避けるべき
便潜血の再検査を繰り返すことが、かえって不安やコスト、リスクを増やす可能性があります。
4. 精密検査:大腸カメラの受診を真剣に考えてほしい
1回の陽性を軽視せず、リスクをきちんと評価したうえで大腸カメラを受けることが、命を守る最善の方法になるケースがあります。
5. 相談は大歓迎です
当クリニックとしては、便潜血が陽性になった方で精査に消極的な方にはその後の最適な対応(再検査 vs 大腸カメラ)を丁寧にご説明し、ご本人のリスクや希望に基づいた納得のいく判断をお手伝いします。
たとえば、1年前に当院で大腸カメラを受けた方が、その1年後に便潜血陽性を再度指摘された場合には大腸カメラを見合わせることもあります。
最後に
「便潜血陽性で再度便検査をして陰性になったら安心」は、データに照らせば非常に危険な思考です。
再検査には偽陽性や偽陰性のリスクがあり、重大な病変を見逃すリスクを高めてしまう可能性があります。
便潜血検査で陽性となった場合、軽んじず、きちんと大腸カメラを検討することが、健康を維持することに繋がりますので、お気軽にお問い合わせください。
いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長 井坂利史
日本内科学会認定 内科認定医、総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本消化管学会認定 胃腸科専門医
日本ヘリコバクター学会認定 ピロリ菌感染症認定医

当院ではポリープを見つけたら即日切除しますので、検査と治療が1日で済みます

