帯状疱疹ワクチンが認知症予防に? ~最新研究が示す意外な効果~
ワクチンの思わぬ効果!?
いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長の井坂です。
近年、高齢者を中心に接種が勧められている帯状疱疹ワクチン。
これまで「つらい皮疹や神経痛の予防に効果がある」として勧められているわけですが、認知症予防にもつながる可能性があるという驚きの研究結果が報告されました。
今回は、受診者さんから度々問い合わせのある“帯状疱疹ワクチンと認知症の関係について”の最新論文をご紹介しながら、医師の立場からその信頼性と実生活での活用法についてお伝えします。
【英国からの大規模研究:ワクチン接種者は認知症リスクが低下?!】
2023年に英医学誌「BMJ(British Medical Journal)」に発表された研究(Llewellyn DJ et al., 2023)では、イングランドで65歳以上の約280万人の医療データを解析し、帯状疱疹ワクチン(主に不活化ワクチン「シングリックス」)と認知症発症率との関連性を調査しました。
研究の主な結果は以下の通りです:
• ワクチンを接種した人は、していない人に比べて認知症の発症リスクが約20%低下。
• 特にアルツハイマー型認知症では約27%のリスク低下が認められた。
• この予防効果は、性別、糖尿病や高血圧などの持病、社会的経済状況などを考慮しても一貫していた。
この結果は、単なる偶然や交絡因子によるものではなく、実際に帯状疱疹ウイルスが脳に悪影響を及ぼし、それをワクチンが防いでいる可能性を示唆しています。
【なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのか?】
帯状疱疹は、水ぼうそうの原因である「VZV(帯状疱疹ウイルス)」が再活性化して起こる疾患です。
通常は皮膚の神経節で再燃しますが、ウイルスが中枢神経に影響を与えることで、脳の炎症や神経細胞への損傷が起こる可能性が報告されています。
近年の研究では、VZV感染がアルツハイマー病や他の神経変性疾患のリスク因子になりうることが示されています。
帯状疱疹ワクチンはこのウイルスの再活性化を防ぐことで、脳への炎症性負荷を減らし、長期的には認知機能の低下を防ぐ効果が期待されているのです。
【認知症予防の新たな柱としてのワクチン?】
これまで認知症予防といえば、「運動」「バランスの良い食事」「脳トレ」などの生活習慣が注目されてきました。しかし、今回のような論文により、感染症予防=認知症予防という新たな視点が加わったことは大きな意味を持ちます。
特に日本のような超高齢社会では、今後さらにワクチンの社会的価値が高まっていくと予想されます。
【当院での取り組み】
当院では、帯状疱疹の予防を目的としたシングリックス(2回接種型の不活化ワクチン)と従来の生ワクチンの取り扱いを行っています。
50歳以上の方、特に糖尿病や免疫力が低下しやすい方には、積極的に接種をおすすめしていますが、今回の論文を受けて、認知症リスクを気になる方にもおすすめしたいと思います。
【シングリックス接種概要】
• 対象年齢:50歳以上(65歳以上は市より助成対象があります)
• 接種回数:2回(2ヶ月~6カ月間隔)
• 副反応:注射部位の痛み、発熱、倦怠感などがありますが、1~2日で軽快することがほとんどです。
【最後に:予防は未来への投資です】
認知症は発症してからの治療が非常に難しい病気です。だからこそ、「予防」が最大のカギとなります。
今回の論文は、帯状疱疹ワクチンは皮膚の痛みを防ぐだけでなく、脳の健康を守るための新しい一歩になるかもしれないという可能性を示しています。
「認知症予防ワクチン」ではなく、あくまで「帯状疱疹ワクチン」ですが、ご自身やご家族の将来のために、一度ワクチンについて考えてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
• Llewellyn DJ, et al. Association between herpes zoster vaccination and reduced risk of dementia: a population-based cohort study. BMJ. 2023;380:e072387.
• Oxman MN, et al. Herpes zoster and the risk of neurologic complications. NEJM.
• 日本神経学会「ウイルス感染と神経疾患の関係」2022年資料
いさか内科・消化器内視鏡クリニック 院長 井坂利史
日本内科学会認定 内科認定医、総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本消化管学会認定 胃腸科専門医
日本ヘリコバクター学会認定 ピロリ菌感染症認定医
近年、高齢者を中心に接種が勧められている帯状疱疹ワクチン。
これまで「つらい皮疹や神経痛の予防に効果がある」として勧められているわけですが、認知症予防にもつながる可能性があるという驚きの研究結果が報告されました。
今回は、受診者さんから度々問い合わせのある“帯状疱疹ワクチンと認知症の関係について”の最新論文をご紹介しながら、医師の立場からその信頼性と実生活での活用法についてお伝えします。
【英国からの大規模研究:ワクチン接種者は認知症リスクが低下?!】
2023年に英医学誌「BMJ(British Medical Journal)」に発表された研究(Llewellyn DJ et al., 2023)では、イングランドで65歳以上の約280万人の医療データを解析し、帯状疱疹ワクチン(主に不活化ワクチン「シングリックス」)と認知症発症率との関連性を調査しました。
研究の主な結果は以下の通りです:
• ワクチンを接種した人は、していない人に比べて認知症の発症リスクが約20%低下。
• 特にアルツハイマー型認知症では約27%のリスク低下が認められた。
• この予防効果は、性別、糖尿病や高血圧などの持病、社会的経済状況などを考慮しても一貫していた。
この結果は、単なる偶然や交絡因子によるものではなく、実際に帯状疱疹ウイルスが脳に悪影響を及ぼし、それをワクチンが防いでいる可能性を示唆しています。
【なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのか?】
帯状疱疹は、水ぼうそうの原因である「VZV(帯状疱疹ウイルス)」が再活性化して起こる疾患です。
通常は皮膚の神経節で再燃しますが、ウイルスが中枢神経に影響を与えることで、脳の炎症や神経細胞への損傷が起こる可能性が報告されています。
近年の研究では、VZV感染がアルツハイマー病や他の神経変性疾患のリスク因子になりうることが示されています。
帯状疱疹ワクチンはこのウイルスの再活性化を防ぐことで、脳への炎症性負荷を減らし、長期的には認知機能の低下を防ぐ効果が期待されているのです。
【認知症予防の新たな柱としてのワクチン?】
これまで認知症予防といえば、「運動」「バランスの良い食事」「脳トレ」などの生活習慣が注目されてきました。しかし、今回のような論文により、感染症予防=認知症予防という新たな視点が加わったことは大きな意味を持ちます。
特に日本のような超高齢社会では、今後さらにワクチンの社会的価値が高まっていくと予想されます。
【当院での取り組み】
当院では、帯状疱疹の予防を目的としたシングリックス(2回接種型の不活化ワクチン)と従来の生ワクチンの取り扱いを行っています。
50歳以上の方、特に糖尿病や免疫力が低下しやすい方には、積極的に接種をおすすめしていますが、今回の論文を受けて、認知症リスクを気になる方にもおすすめしたいと思います。
【シングリックス接種概要】
• 対象年齢:50歳以上(65歳以上は市より助成対象があります)
• 接種回数:2回(2ヶ月~6カ月間隔)
• 副反応:注射部位の痛み、発熱、倦怠感などがありますが、1~2日で軽快することがほとんどです。
【最後に:予防は未来への投資です】
認知症は発症してからの治療が非常に難しい病気です。だからこそ、「予防」が最大のカギとなります。
今回の論文は、帯状疱疹ワクチンは皮膚の痛みを防ぐだけでなく、脳の健康を守るための新しい一歩になるかもしれないという可能性を示しています。
「認知症予防ワクチン」ではなく、あくまで「帯状疱疹ワクチン」ですが、ご自身やご家族の将来のために、一度ワクチンについて考えてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
• Llewellyn DJ, et al. Association between herpes zoster vaccination and reduced risk of dementia: a population-based cohort study. BMJ. 2023;380:e072387.
• Oxman MN, et al. Herpes zoster and the risk of neurologic complications. NEJM.
• 日本神経学会「ウイルス感染と神経疾患の関係」2022年資料
いさか内科・消化器内視鏡クリニック 院長 井坂利史
日本内科学会認定 内科認定医、総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本消化管学会認定 胃腸科専門医
日本ヘリコバクター学会認定 ピロリ菌感染症認定医
ワクチンにより7 年後で累積リスクが有意に低かった(約20%)という結果を報告しています