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胃薬はずっと飲み続けても大丈夫なの?


いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長の井坂です。

“胃薬は飲み続けても大丈夫ですか?”と先日、定期受診中の患者さんから質問を頂きましたので、今回は胃薬の長期内服についてお話したいと思います。

まず、胃薬にはおおまかに

① 胃酸分泌を抑制する薬
② 胃粘膜を保護する薬
③ 胃の動きを整える薬

などありますが、今回は前回のバレット食道に関して説明したブログを受けて①の胃酸分泌を抑制する薬、なかでもProton Pump inhibitor(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)についてお話ししたいと思います。

【具体的な薬剤名】
まずは具体的な薬剤名を紹介しますので、自分が飲んでいる定期薬に含まれていないか確認してみてください。商品名(一般名)になります。
PPI:オメプラール(オメプラゾール)、タケプロン(ランソプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)
P-CAB:タケキャブ(ボノプラザン)

【関連しているかもしれない有害事象】
これらの薬剤と関連している(かもしれない)有害事象は実は色々ありますので、以下に列挙します。

① 水様性下痢:Collagenous colitis(膠原線維性大腸炎)
PPI長期内服中に慢性の下痢がある場合に一定の割合で見つかるのがこのCollagenous colitisです。
病理学的に大腸の粘膜表面に膠原線維(コラーゲン)が沈着するとされています。
長期間、水様性下痢に悩まされている患者さんは、まさか定期薬が原因と思っていないことが多く、PPIを中止することで速やかに改善しますので、大変感謝されます。
消化器内科医以外の医師には周知されていないこともありますので、PPI内服中の方で下痢が続く場合は処方医を通して消化器内科医に相談してみてください。
なお、PPI以外に痛み止めや血圧を下げる薬などが原因になることもあります。

② 腸管感染症
PPI内服によって殺菌作用を持つ胃酸を抑制しますので、病原性の菌が胃の中で殺菌されず腸へ侵入して腸内フローラのバランスが崩れる可能性があり、腸炎を引き起こすリスクが高まると言われています。
特にクロストリジウム・ディフィシルという細菌の感染症の発生率が増加する可能性が指摘されています。

③ 誤嚥性肺炎
②と同様に殺菌作用を持つ胃酸を抑制することで、胃の中の菌が生き残ってしまって、それらを嘔吐して気管や肺へと流入してしまう誤嚥をすることで肺炎が起こしやすくなるのではと言われていますが、臨床試験では肺炎が発症しやすいというデータは無いようであり、一定の見解は得られていません。

④ 胃底腺ポリープの増大
PPI投与で胃底腺ポリープという種類のポリープが増えたり、大きくなったりすることは報告されており、日常的に胃カメラを実施した方でよく経験します。
ただ、この胃底腺ポリープががん化することは基本的にはないとされていますので、過度に心配することはありませんし、PPIを休止することでポリープは小さくなってきます。

⑤ 胃がん
そもそもPPIやP-CABは胃がんの原因となるピロリ菌の除菌薬として使用されますが、最近、ピロリ菌除菌後の方において、PPIやP-CABを長期投与すると胃がん発症につながるのではないかと報告されています。
直接的な因果関係は明らかになっていないものの、胃酸の分泌を過剰に抑えることで本来の胃内環境のバランスが崩れてしまい、それが発癌につながるのではないかと推察されています。ただ、これもエビデンスの高い臨床試験では示されていません。
とは言え、気にはなる報告ではありますので、ピロリ菌除菌後に逆流性食道炎を発症してPPIやP-CABを内服している方は症状が落ち着いているときは休薬するなどして、過剰な胃酸分泌抑制は避けてもよいかと思われます。

⑥ 骨折・骨粗鬆症
薬の長期服用は骨密度にも影響を及ぼすことが分かってきました。
胃酸の減少でカルシウムの吸収が悪くなり骨強度が低下するという機序が想定されており、特に高齢の方などでは骨折の危険性が増すと言われています。
予防策としては、カルシウムやビタミンDの補給、適度な運動が推奨されています。
もし、長期にわたるPPIやP-CABの服用が避けられない場合には、骨密度のチェックを定期的に行い、医師による適切な指導のもと、骨健康を保つ工夫をしていくことが大切です。
一方で特に関連性はないという報告もされており、未だに決着がついておりません。

⑦ 認知症
マウスの実験では、PPIの長期内服がアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβタンパク質の産生を促進させることがわかっており、PPIを長期内服している人は認知症の発症リスクが上昇するのではないかと報告されています。
ただ、これも認知症発症リスクにならないという報告もある状況です。

⑧ 間質性腎炎・腎機能障害
特に高齢者においてPPIの長期内服で間質性腎炎による腎機能障害を起こす可能性が報告されています。ただ、これも決着がついていません。

【まとめ】
以上、私たち消化器内科医が一番処方していると言っていいPPIやP-CABといった胃酸分泌を抑制する薬の“負の部分”について説明致しましたが、関連性が不確実なことも含んでいますので、過度に心配されないようお願いします。
これらの薬は数ヶ月という短期間の服用であれば特に問題ありませんが、長期的に服用するといずれかの副作用(有害事象)が出る可能性はあります。
飲まないといけない理由がある場合は、継続して服用することになりますが、薬の変更や休薬のできる場合もあるかと思いますので、自分は必ず飲まなければならない薬なのか、一度処方医に相談してみてください。

いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長 井坂利史

日本内科学会認定       内科認定医、総合内科専門医 
日本消化器病学会認定     消化器病専門医  
日本消化器内視鏡学会認定   消化器内視鏡専門医 
日本消化管学会認定      胃腸科専門医 
日本ヘリコバクター学会認定  ピロリ菌感染症認定医

多くの薬を服用されている方は一度見直してみることをおススメします