便の色はおなかのバロメーター!
いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長の井坂です。
便の色は言うまでもなく通常茶色ですが、そうでない場合には病気のサインである可能性があります。
そこで、今回は便の色によって疑われる疾患について解説したいと思います。
【白い便】
通常の便は茶色ですが、これは食べ物の消化を助けるために分泌される「胆汁」に含まれる「ビリルビン」によるものです。
胆汁は肝臓で作られ、一旦胆のうに蓄えられ、濃縮されます。
食べ物を食べると、胆のうが収縮し、胆汁は胆のう管から総胆管という管を通って十二指腸に流れていき、食べ物と混ざっていきます。
この胆汁の通り道である胆管が詰まると白っぽい便になります。
具体的にどのような病気が考えられるか説明していきましょう。
① 胆管が詰まってしまう場合
・先天性胆道閉鎖症
胆道閉鎖症は、生まれつきまたは生後間もない時期に起こる胆管がふさがってしまう病気です。
できるだけ早期に手術が必要になります。
・胆道がん
胆道がんは胆道(肝内胆管・総胆管)にできたがんの総称です。
初期には症状が現れにくい事も多いですが、白い便の他に皮膚が黄色になる黄疸、茶色っぽい色の尿、皮膚のかゆみ、倦怠感などがあります。
・胆石症
胆石症とは、胆嚢や胆管に結石ができる病気です。
胆のう結石は無症状のことが多いですが、総胆管に結石が落ちて詰まると、強い腹痛、背中の痛み、発熱、黄疸、白い便などが出現します。放置すると感染を伴い、その細菌が全身の血液に入りこむ菌血症から敗血症へと重症化することがありますので、早めの処置が望ましいです。
・膵臓がん
総胆管は一部で膵臓の中を通って、十二指腸に繋がります。
従って、膵臓の中にできた腫瘍が総胆管に浸潤して詰まらせてしまうことがあります。
膵がんは早期発見が困難ですが、この黄疸、白色便といった症状を契機に見つかることがあります。
② 慢性膵炎
膵臓に繰り返し炎症が起こった事で、膵臓の細胞が壊れてしまう慢性膵炎でも白い便が出る事があります。
そのほとんどの原因はアルコールです。
膵臓の機能が低下したことにより、膵液が十分に分泌されなくなります。
すると脂肪を分解できなくなり、白い便になります。
便には脂肪が多く含まれていますので、油っぽくて水に浮くという特徴があります。
③ 感染症
白い便が出る感染症として、ロタウイルスやコレラがあります。
ロタウイルスは急性胃腸炎の一種で、0~2歳の子どもを中心に冬から春先にかけて流行する傾向があります。
主な症状は、吐き気、嘔吐、発熱、米のとぎ汁のような白~灰白色の水っぽい下痢、腹痛などです。
コレラはコレラ菌に感染することで発症する病気です。
たいていは中東などコレラが流行している地域への旅行で感染し、国内でかかる事はまれな病気です。
④ バリウム検査後
これは番外編になります。
胃のレントゲン検査の際に飲むバリウムは、消化や吸収がされないので、そのまま白いバリウム便として排泄されます。
ほとんどはスムーズにバリウムは排泄されますが、便秘しやすい人などではうまく排泄されない事があります。長期間、大腸に残っているとバリウムが固まって腸閉塞を起こすことがありますので、検査後に白い便が出ない、飲んだ量に対して少ないように感じられる場合や腹痛などがある場合には受診してください。
【黒い便】
黒い便も病気が隠れている場合があります。
① 食道、胃、十二指腸からの出血
血液は出血した直後は赤色ですが、胃酸の影響を受けて酸化されると黒くなります。
血液には鉄が含まれているため、鉄がさびると黒くなるのと同じです。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、食道がんなどでは吐血として発症することがありますが、吐かずに奥へと流れ込んでしまうと、黒い便がみられます。墨のような真っ黒い便でタール便と呼びます。
② 食べ物、飲み物の影響
海藻類やイカスミを使った料理、赤ワインを多量に摂取した場合に黒い便がみられることがあります。
また、肉類やチョコレートを大量にとった場合にはこげ茶~黒い便が出ることがあります。
③ 薬の影響
貧血で鉄剤(フェロミア、フェルム、フェロ・グラデュメット、インクレミンなど)を飲んでいる場合にも黒い便がみられます。
処方された医師から説明がなかったため、慌てて受診される方もいます。
④ 腸内環境の悪化
腸内に悪玉菌が増えた場合に黒っぽい便になることがあります。
便秘時に腸内で便の腐敗や酸化が起こったり、水分が抜けたりすることで便の色が濃褐色となることがあります。
⑤ 小腸、大腸からの出血
大腸がんでは赤い血便や便秘などがみられますが、小腸に近い盲腸や上行結腸など肛門から遠い部分にできた場合に排便されるまでに時間がかかることで便が黒くなることがあります。
また、小腸からの出血自体は稀ですが、小腸の潰瘍や血管の病変、腫瘍などにより出血すると赤い血便だけではなく、黒い便が出ることがあります。
【緑色の便】
① 食べ物や薬剤の影響
葉野菜やグリーンスムージーを大量に食べると緑色の便が出ます。また、葉緑素を含む胃腸薬を飲んだ場合も同様です。これは心配ありません。
② 胆汁の酸化
胆汁に含まれるビリルビンが酸化して緑色に変色することがあります。
これは、便が腸内に長くとどまったり、腸内細菌のバランスが変化したり、暴飲暴食などで胃腸が弱っていたりすると起こりやすいです。
③ 感染や炎症
細菌やウイルスによる腸炎ではビリルビンが小腸で再吸収されなくなり、便の色が緑色に見えることがあります。
④ 溶血性貧血、急性肝炎による黄疸
赤血球が壊れると中に含まれているビリルビンが血液中に放出されます。(溶血性貧血といわれる病態です)その増えたビリルビンが酸化され、便が緑色になります。
また、急性肝炎によって肝臓の機能が低下するとビリルビンが血液中に増えて黄疸となり、便が緑色になることがあります。
【赤い便】
赤色の便はつまり血便であり、下部消化管と呼ばれる大腸や肛門からの出血があると考えられます。
大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎(O-157)、虚血性腸炎、大腸憩室出血、痔核など多くの可能性があります。
過去に血便を疑われ、大腸カメラで痔だったという経験があっても、3年以上経過しているようであれば、受診をおススメします。
出血があるということだけでも、消化管の異常を示すと考え、適切な対応を取ることが大切です。
以上のように
便の色が茶色でないことは病気のサインかもしれません。
放置しておくと重症化することもありますので、当院も含めたお近くの消化器内科を受診するようにしてください。
採血や胃・大腸カメラ、腹部超音波で病気がないかチェックできます。
いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長 井坂利史
日本内科学会認定 内科認定医、総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本消化管学会認定 胃腸科専門医
日本ヘリコバクター学会認定 ピロリ菌感染症認定医
便の色は言うまでもなく通常茶色ですが、そうでない場合には病気のサインである可能性があります。
そこで、今回は便の色によって疑われる疾患について解説したいと思います。
【白い便】
通常の便は茶色ですが、これは食べ物の消化を助けるために分泌される「胆汁」に含まれる「ビリルビン」によるものです。
胆汁は肝臓で作られ、一旦胆のうに蓄えられ、濃縮されます。
食べ物を食べると、胆のうが収縮し、胆汁は胆のう管から総胆管という管を通って十二指腸に流れていき、食べ物と混ざっていきます。
この胆汁の通り道である胆管が詰まると白っぽい便になります。
具体的にどのような病気が考えられるか説明していきましょう。
① 胆管が詰まってしまう場合
・先天性胆道閉鎖症
胆道閉鎖症は、生まれつきまたは生後間もない時期に起こる胆管がふさがってしまう病気です。
できるだけ早期に手術が必要になります。
・胆道がん
胆道がんは胆道(肝内胆管・総胆管)にできたがんの総称です。
初期には症状が現れにくい事も多いですが、白い便の他に皮膚が黄色になる黄疸、茶色っぽい色の尿、皮膚のかゆみ、倦怠感などがあります。
・胆石症
胆石症とは、胆嚢や胆管に結石ができる病気です。
胆のう結石は無症状のことが多いですが、総胆管に結石が落ちて詰まると、強い腹痛、背中の痛み、発熱、黄疸、白い便などが出現します。放置すると感染を伴い、その細菌が全身の血液に入りこむ菌血症から敗血症へと重症化することがありますので、早めの処置が望ましいです。
・膵臓がん
総胆管は一部で膵臓の中を通って、十二指腸に繋がります。
従って、膵臓の中にできた腫瘍が総胆管に浸潤して詰まらせてしまうことがあります。
膵がんは早期発見が困難ですが、この黄疸、白色便といった症状を契機に見つかることがあります。
② 慢性膵炎
膵臓に繰り返し炎症が起こった事で、膵臓の細胞が壊れてしまう慢性膵炎でも白い便が出る事があります。
そのほとんどの原因はアルコールです。
膵臓の機能が低下したことにより、膵液が十分に分泌されなくなります。
すると脂肪を分解できなくなり、白い便になります。
便には脂肪が多く含まれていますので、油っぽくて水に浮くという特徴があります。
③ 感染症
白い便が出る感染症として、ロタウイルスやコレラがあります。
ロタウイルスは急性胃腸炎の一種で、0~2歳の子どもを中心に冬から春先にかけて流行する傾向があります。
主な症状は、吐き気、嘔吐、発熱、米のとぎ汁のような白~灰白色の水っぽい下痢、腹痛などです。
コレラはコレラ菌に感染することで発症する病気です。
たいていは中東などコレラが流行している地域への旅行で感染し、国内でかかる事はまれな病気です。
④ バリウム検査後
これは番外編になります。
胃のレントゲン検査の際に飲むバリウムは、消化や吸収がされないので、そのまま白いバリウム便として排泄されます。
ほとんどはスムーズにバリウムは排泄されますが、便秘しやすい人などではうまく排泄されない事があります。長期間、大腸に残っているとバリウムが固まって腸閉塞を起こすことがありますので、検査後に白い便が出ない、飲んだ量に対して少ないように感じられる場合や腹痛などがある場合には受診してください。
【黒い便】
黒い便も病気が隠れている場合があります。
① 食道、胃、十二指腸からの出血
血液は出血した直後は赤色ですが、胃酸の影響を受けて酸化されると黒くなります。
血液には鉄が含まれているため、鉄がさびると黒くなるのと同じです。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、食道がんなどでは吐血として発症することがありますが、吐かずに奥へと流れ込んでしまうと、黒い便がみられます。墨のような真っ黒い便でタール便と呼びます。
② 食べ物、飲み物の影響
海藻類やイカスミを使った料理、赤ワインを多量に摂取した場合に黒い便がみられることがあります。
また、肉類やチョコレートを大量にとった場合にはこげ茶~黒い便が出ることがあります。
③ 薬の影響
貧血で鉄剤(フェロミア、フェルム、フェロ・グラデュメット、インクレミンなど)を飲んでいる場合にも黒い便がみられます。
処方された医師から説明がなかったため、慌てて受診される方もいます。
④ 腸内環境の悪化
腸内に悪玉菌が増えた場合に黒っぽい便になることがあります。
便秘時に腸内で便の腐敗や酸化が起こったり、水分が抜けたりすることで便の色が濃褐色となることがあります。
⑤ 小腸、大腸からの出血
大腸がんでは赤い血便や便秘などがみられますが、小腸に近い盲腸や上行結腸など肛門から遠い部分にできた場合に排便されるまでに時間がかかることで便が黒くなることがあります。
また、小腸からの出血自体は稀ですが、小腸の潰瘍や血管の病変、腫瘍などにより出血すると赤い血便だけではなく、黒い便が出ることがあります。
【緑色の便】
① 食べ物や薬剤の影響
葉野菜やグリーンスムージーを大量に食べると緑色の便が出ます。また、葉緑素を含む胃腸薬を飲んだ場合も同様です。これは心配ありません。
② 胆汁の酸化
胆汁に含まれるビリルビンが酸化して緑色に変色することがあります。
これは、便が腸内に長くとどまったり、腸内細菌のバランスが変化したり、暴飲暴食などで胃腸が弱っていたりすると起こりやすいです。
③ 感染や炎症
細菌やウイルスによる腸炎ではビリルビンが小腸で再吸収されなくなり、便の色が緑色に見えることがあります。
④ 溶血性貧血、急性肝炎による黄疸
赤血球が壊れると中に含まれているビリルビンが血液中に放出されます。(溶血性貧血といわれる病態です)その増えたビリルビンが酸化され、便が緑色になります。
また、急性肝炎によって肝臓の機能が低下するとビリルビンが血液中に増えて黄疸となり、便が緑色になることがあります。
【赤い便】
赤色の便はつまり血便であり、下部消化管と呼ばれる大腸や肛門からの出血があると考えられます。
大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎(O-157)、虚血性腸炎、大腸憩室出血、痔核など多くの可能性があります。
過去に血便を疑われ、大腸カメラで痔だったという経験があっても、3年以上経過しているようであれば、受診をおススメします。
出血があるということだけでも、消化管の異常を示すと考え、適切な対応を取ることが大切です。
以上のように
便の色が茶色でないことは病気のサインかもしれません。
放置しておくと重症化することもありますので、当院も含めたお近くの消化器内科を受診するようにしてください。
採血や胃・大腸カメラ、腹部超音波で病気がないかチェックできます。
いさか内科・消化器内視鏡クリニック院長 井坂利史
日本内科学会認定 内科認定医、総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本消化管学会認定 胃腸科専門医
日本ヘリコバクター学会認定 ピロリ菌感染症認定医
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